Xmasプレゼント
「今日は何の日か知ってる?」
 アンジェは傍らにいる銀髪の青年にそう尋ねた。声とともに、口から外に出た息が白い。この冬の時期、空気がピンと張り詰めていて、顔に刺さるかのように寒さが身にしみる。しかも、もうすぐ日が暮れる。
 昼間はアンジェが見たい映画にアリオスは連れて行ってくれた。その後に入った喫茶店で、アンジェは映画の感想をアリオスに語った。あれがよかった、あのシーンのあの言葉、あのシチュエーションがよかった、など。どれ位時間が経った頃だろうか。アリオスが急に「出るぞ」と言って、喫茶店を後にした。その後は何処に行くでもなく、ただ街を二人で歩いているだけだった。昼間はまだ、日の当たっている場所はそれなりに暖かいのだが、日が傾いてくると急に寒さが増す。その寒さから逃れるかの様に、そして恋人同士が自然と行うように、アンジェはアリオスの腕を組んだ。
「あぁ?いきなり何を聞いて来るんだ、お前?」
「いいから答えてよ、アリオス」
 迷惑そうに腕を解かれても諦めずに、アンジェは更に答えを求めた。
「俺の誕生日は、1ヶ月前に終わったしな」
「いっぱいお祝いしてあげたでしょ。そうじゃなくて」
「お前、あの時も同じ事聞いてきただろうが」
「そうだけど…」
 アンジェは言葉に詰まってしまった。いつも同じ問いかけしか出来ないと、アリオスに思われているのだろうか。でも今日は特別な日なのである。だからこそ、この日が来るまでいろいろと考えて、精一杯おめかししてきたのだ。
「じゃあ、何か。お前の誕生日って言いたいのか」
 少し考えて、アリオスは答えた。しかも、手の焼く子供に対する言い方で。言葉の裏には『やれやれ』なんて気持ちが込められている。
「違うわよ」
 言葉の裏に込められた気持ちに感づいて、アンジェはむくれて口を尖らせた。
「プレゼントが欲しくて駄々をこねてるガキでもあるまいし、そうむくれるなよ」
 呆れた調子でアリオスが返す。その返事に余計にアンジェは怒りの表情を顔に出した。
「今日が何の日だろうが、俺には関係ない。もう聞いてくるな」
 そのアリオスの言葉で、アンジェの瞳から思わず涙が出てきた。折角のXmas。大好きなアリオスと過ごしたい、そんな思いで今日この日を楽しみに待っていた。あれをして、あそこに行って…。頭の中でいろいろと思い描いて。今日は楽しい一日になる筈だった。だが、アリオスは違うのだろうか。自分と一緒なのが迷惑なのだろうか。
「おい、何泣いてるんだよ」
 アンジェの涙に気付いて、困ったようにアリオスが声をかけてくる。その言葉にやっぱり不安な気持ちをアンジェは隠せなかった。
「少し早いけど、何とかなるかな」
 アリオスは小さな声で、そうつぶやいた。アンジェには聞き取れなかったのだが、それを聞いても、アリオスは何も答えてはくれなかった。アリオスの冷たい態度に、アンジェの不安は増す一方だった。

「ちょっとここで待ってろよ」
 そう云われて気付いたら、どこかのホテルのレストランの入り口だった。いろんな思いで頭が一杯で、ただ周りを見ずにアリオスの後についてきたのだ。ここが何処かなんて解る筈も無く、ただアリオスの云われるままに、入り口で待っていた。
 アリオスが戻ってくるのにそう時間はかからなかった。ただ、戻ってきてすぐ中に入るわけでもなく、ましてや立ち去るわけでもなく、何の説明もなくアリオスはただ黙っていた。アンジェも聞くに聞けず、アリオスと同じように黙ったままそこに立っていた。
 少しすると、中から店の従業員が出てきて、二人を席に案内してくれた。
 席に案内されると、そこは窓際の席で夕暮れが綺麗に映し出されていた。
 どうやら最上階で眺めがよく夜景が綺麗だと言う事で有名なレストランだと、アンジェは思い出した。実際に来た事はなく、確か予約が必要だったと覚えている。そんな場所に、アリオスが連れてきてくれた。アンジェは驚いた顔でアリオスを見た。
「何だよ、ここじゃ不満か?」
「そんな、不満だなんて。でも、ここって予約じゃないと来れないし。それに今日は…」
「イブだって言いたいんだろ。だから今日はここに連れてきたんだ。お前が駄々こねるから早く来ちまったけど、文句は云うなよ」
「文句だなんて…」
 言い訳をしようとした時、料理が運ばれてきたのでアンジェは言葉をそのまま飲み込んでしまった。後できちんと言わなきゃ、と思っていたが、料理のおいしさにすっかりアンジェはその事を忘れてしまった。

「お前に渡す物がある」
 食事が終わりレストランから出たすぐのホールのXmasツリーのところで、アリオスが小さな小箱をアンジェの前に差し出した。
「Xmasプレゼント」
「えっ、だってさっき、関係ないって…」
「バカか、お前。あんなベタな聞き方しやがって」
「だって…」
「クッ。まあ、お前らしいと云うか何ていうか」
 アリオスは軽く笑うと、意地悪な顔のまま「いらないのか?」と聞いた。
 アンジェは慌ててプレゼントを貰うと、開けていいか尋ね、すぐに包みを開け始めた。箱を開けると、中にはオープンハートのペンダントと指輪が入っていた。
「有難う、アリオス」
 アンジェの感謝の言葉を聞くと、アリオスは軽く微笑むと
「つけてやる、貸せ」
 そう言うと、アリオスは先ずペンダントをつけてやった。そして指輪をはめようとアンジェに手を出すよう促した。アンジェがアリオスの指示どおりに手を出すと、またアリオスは意地悪そうに笑った。
「なんだ、そっちの手でいいのか、アンジェ」
 アリオスの言葉にアンジェは、顔を赤くしておずおずと左手を差し出した。指輪をはめてもらうなんて、初めての経験で、触れられている手がなんだかこそばゆかった。そのアンジェの反応を楽しむかのように、ゆっくりと左手の薬指に指輪をはめた。
 アンジェが顔を赤くして恥ずかしそうに軽く顔を俯かせると、アリオスはすっとアンジェによってきた。それにアンジェは気付いたが、顔を上げる事も出来ずにそのままでいると、アリオスは耳元に顔を近づけてきた。その事だけで余計に顔を赤くしていたが、アリオスはそのまま耳元で軽く囁いた。
「愛してる。お前はずっと俺だけのものだ」
 その言葉にアンジェは耳まで真っ赤にさせて、顔を上げアリオスの顔を見た。そしてゆっくりと二人は唇を合わせた。
 まだ聖夜は始まったばかり――――

 

初のアンジェ創作です。しかもアリオスvコレットのXmas企画。アリオスファンの方、アリオスのイメージは崩れてないでしょうか。それだけがちょっと不安です。
わかる方にはわかってしまうかと思うのですが、でもありきたりかなーとも思いつつ、やっちゃいました。決してどこぞのイベントで誰かが言ってたなんて、思ったとしても影で思っていて下さい(^_^;)
この後の二人は、貴女の心の中で…v
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