ほろ苦い恋の味
2月に入ると街ではあちらこちらで、間近に迫ったイベントの準備で活気付く。
特に女の子達は、何かと忙しい。
そう、もうすぐVALENTINE DAY。
あかねも何日も前からあれこれ模索していた。
以前は、どうせお菓子屋の陰謀だと言わんばかりに、とりあえず天真と詩紋に義理チョコくらいしか渡していなかったのだ。
それが今年は、いつもと違う。
友雅が現代にやってきてから、初めてのVALENTINE。
一応、その日がどういう日であるのかは、あかねからも伝えたし、どうやら天真や詩紋も本人に教えたらしい。
どうやら、友雅の方もそのイベントにとても興味を示したらしい。
今年は今までのようなVALENTINEで済ませるわけにはいかない。折角なので、チョコくらいは手作りの物を渡したい。
毎日家から帰ると、台所で一人チョコと悪戦苦闘していたが、初めての手作りチョコなので思うようにいかない。
他の機会ならば、お菓子作りではあかねより上手な詩紋に頼りたいところだが、今回に限ってはそうもいかない。

そうやって悪戦苦闘すること、VALENTINEの前日。
何とか見た目は上手く出来上がった。失敗しすぎて、友雅に渡す分しか出来なかったのである。
急いで、ラッピング用の包装紙とリボンを買いに行き、天真と詩紋用のチョコも一緒に購入する。

今年のVALENTINEは土曜日なので、学校が終わったらすぐに友雅と待ち合わせである。
半日で終わるので、一緒にいられる時間も平日と比べたくさんあるし、遅くなったとしても翌日は日曜なので、学校に支障をきたす訳でもない。
あかねは授業もほとんど頭に入らない状態だった。
学校が終わると、すぐにあかねは教室を飛び出した。
友雅も仕事が休みなので、学校まで迎えに来てくれる事になっている。
教室を飛び出したあかねは、正門が見える廊下の窓から、外に友雅の車が止まっているのを確認した。

さらにあかねは、たくさんの女生徒に囲まれた友雅の姿をも確認する事になる。

何度か友雅は学校まであかねを迎えに来ているので、友達以外でも友雅の事を見知っている生徒は多い。
しかも友雅の風貌といい、京にいた時の噂といい、あかねの心は穏やかでなかった。
あかねが正門に到着すると、それに気づいた友雅が声をかけてきた。
そしてその場にいた女生徒達に軽く挨拶をして、あかねを車に乗せるとそのまま発進した。

「どうかしたのかな、あかね。今日は随分と機嫌が悪いようだが」
「知りません。何故なのかは自分の胸に聞いて下さい」
あかねの怒ったような返事を聞いて、友雅は車を道の端に止めた。
「私は何もあかねを怒らせるような事はしてない筈だが」
意外そうな顔で友雅は答えた。優しそうな微笑で横目であかねを見ていた。
「さっき女の子達に囲まれていたじゃないですか。どうせ皆から、チョコいっぱい貰ったんでしょ」
「何の事かな?」
「とぼけないで下さい。後ろの座席に置いてある包みに気付いてないと思ってるんですか?!」
「あぁ、これはね…」
「いいです。言い訳なんて聞きたくないです」
そう言うとあかねは、バッグの中にしまっておいたチョコを取り出すと、思いっきり包み紙を破くと、そのまま食べ始めた。
「折角慣れない手作りチョコなんて作ったのに…」
あかねは泣きながらチョコをバクバクと食べていく。所々チョコが焦げていたのか、苦い部分もあった。
「全く、この姫君は…」
友雅は苦笑いすると、あかねの前に身を乗り出した。




















軽く触れるだけの、甘いキス。
あかねの唇に温かい感触が伝わる。




驚いて友雅の方を見ると、今度は深い口づけを交わす。











頭の中まで蕩けそうになった頃、友雅は身を引いた。
そして後部座席に置いてある包みから中の物を出すと、あかねの首にそっと巻いた。
それは淡い桜色のマフラーだった。
あかねによく似合う、優しい色使いのマフラー。
そのマフラーに気付いたあかねは、包みの中に更に同じ色の手袋が入っているのに気がついた。
「友雅さん、これは…?」
つい女の子から貰ったVALENTINEのプレゼントだと勘違いしてしまったが、どうやら友雅があかねの為に選んでくれた贈り物のようだ。
「他の国では、愛する人に贈り物をする日だと聞いたからね」
その言葉にあかねは、今しがたチョコを食べ尽くしてしまった事に気がついた。
「チョコ、ごめんなさい。勘違いで一人で怒って…」
あかねの詫びに友雅は少し意地悪そうな顔をした。



「おいしかったよ。君の口から直接貰った、チョコレートは」



あかねの首まで真っ赤にした顔を見て、更にまた友雅は笑みをこぼした。

VALENTINEネタ第1弾
間に合わせる為に半ば勢いで書いたお話
というか、書きたいネタが出来てからは、話が出来上がるのが早かった
一応、現代に来てから初めてのVALENTINE DAYという設定です
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