『クリスマスイブの日、学校が終わったら屋上で待ち合わせね』


予測不可能


 二学期の終業式も終わり、明日から冬休みを向かえる。
「志水くーん」
 校門の辺りで、志水はいつもの調子で家路につこうとした時、自分を呼び止める声に気がつき後ろを振り返った。
 自分を呼び止めたのは、セレクションがきっかけで付き合い始めた香穂子だった。
 慌てて走ってきたので、志水に追いつくと呼吸を整える為に香穂子は大きく深呼吸した。
「香穂先輩、どうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ、志水君。今日の約束忘れてるでしょ」
「…約束?」
 志水は頭を巡らせたが、香穂子が望む答えはすぐに出てきそうになかった。
「じゃあ、志水君。今日は何の日?」
 香穂子は質問の内容を変えてみた。
…今日、ですか?終業式です」
「そうじゃなくて…」
「あ、明日から冬休みですね。香穂先輩、冬休みは何処かに行かれるんですか?」
「今のところ特に予定はないけど、って本当に分かってないのね」
 香穂子は大きな溜め息をついた。
「今日は何日?」
 諦めた香穂子はストレートな質問に変えた。
24日です」
「何月?」
12月です。…クリスマスイブなんですね、今日って」
 志水はその言葉の後、少し考え込んでいた。
「あ…?」
 漸く香穂子の求めていた答えにたどり着いたらしい。
「すいません。約束、今日ですね」
 ひどく慌てるふうでもなく、本当に悪いと思っているのか、と思いたくなるような調子で志水は謝罪する。それも毎度の事なので香穂子はさほど気にも止めていなかったが。
「じゃあ、近くの公園にでも行こうか」
 志水は頷くと、二人は場所を公園に移した。



「はい、志水君。これクリスマスプレゼント」
 そう言って香穂子は手に持っていた紙袋を志水に渡した。
 志水が中を開けて見ると、いつも志水がはめている手袋と同じ色、素材のマフラーだった。
「迷惑だった?」
 中身を出しても表情も変わらない志水を見て、香穂子は不安になった。
 嬉しそうな表情をしていなくても、一言言ってくれれば伝わるのだが、必要な時に言葉数が少ない志水はよく誤解される。
「いえ、嬉しいです…」
 それだけ言うと、また志水は黙り込んだ。その顔は何か考え込んでいるかのようだった。
「志水君?」
 また黙り込んだ恋人に、香穂子は不安げに声を掛けた。
「考えてました」
「え?」
「どうして香穂先輩は、僕が欲しい物が分かるんだろうって」
 志水の答えを聞いて香穂子は顔を赤くして俯いた。
 香穂子の視線を追いかけるかのように、視線を落とした志水が見たのは、寒さで指先を真っ赤にしている香穂子の手だった。
「香穂先輩、手袋…」
 志水の言葉に香穂子は慌てて自分の手を後ろに隠した。
「手袋、朝はしてましたよね?」
 朝一緒に登校した時は、確かに香穂子の手には可愛らしい淡いピンクの手袋をしていた。
 志水は『先輩が好きな色の手袋』と認識していたので、見間違える筈はない。
「教室に置いてきちゃったかな?慌ててたから、つい」
 香穂子はバツが悪そうに照れ笑いした。
「僕のせい、ですね」
 志水の表情はあまりはっきりと変化しないのだが、今は志水の感情が手にとる様にわかる。
「あ、あのね、志水君。私、ドジだからこういう事しょっちゅうなの。だから気にしないで」
 香穂子の弁明を志水は何も言わずに聞いていたが、徐に自分の両手にはめていた手袋を外すと香穂子に差し出した。
「僕のあげます。使って下さい」
「そ、そんな貰えないよ。それに折角その手袋に合うマフラー探したんだから、ね」
 香穂子はかたくなに受け取るのを拒否した。こうなるといくら言っても自分の意思を最後まで通す。
 諦めた志水は、片方の手袋をはめると、その状態で少し考えた。
そしてある結論に達すると、はめてないほうの手袋を再度差し出した。
「志水君、だから受け取れないって…」
「はい、分かっています。片方、香穂先輩に貸します。使って下さい」
 『貸す』という言葉に、それならと漸く香穂子も手袋を受け取った。
「へへ、暖かいね」
 香穂子は嬉しそうに志水の手袋を見ていた。
「香穂先輩、手、出して下さい」
 志水の言葉に香穂子は手袋をはめた方の手を差し出した。
「違います。そっちじゃないです」
 志水は手袋をはめてないほうの手を取った。
 手を取られて、志水の温かい手に思わず香穂子は手を離したが、何も言わず志水はまた香穂子の手を取った。
「あ、あのね、志水君。私の手、冷たいでしょ。だから…」
 『離して』と言おうとしたら、志水は何の問題もないという顔で、香穂子を見た。
「これで、手袋なくても温かいですよね」
 そう言って志水は軽く微笑んだ。
「明日からの冬休み、香穂先輩、その片方の手袋はめてて下さいね。もう片方はこうしてれば、温かいですよね」
 志水の思いがけない言葉で香穂子の顔は真っ赤になった。


 こうして二人の冬休みは、温かく過ぎていった。
 香穂子にとっては、突然の志水の恥ずかしい行動に踊らされ、始終動悸がする日々を送るはめになった事は、言うまでもなかった。


初のコルダ創作は、志水×日野のXmas創作になりました。
ネオフェス7で見た、じゅんじゅん(福山さん)が、こう可愛くて且つ黒くて、思わず志水君ネタが出てきてしまいました。
でも、この話は別に黒志水ではないけど。
こう、志水って、言いそうにない事を、何気ない顔でさらっと言ってそうです。しかも天然ちゃんだから、照れもせずに。
こういう所、ある意味ユーイもそうかなーとか思いつつ、なんかここ最近、お子様キャラも苦手ではなくなってきたなーと。
ネオフェスでの、声優さんご本人の人柄に惚れると、そのキャラも苦手では無くなってくるって、不思議です。
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